「じゃあ、俺らも出発しようか」
琉依がそう言い、バイクのエンジンをつけたとき。
「待て」
大きくはないが、よく通る声。
どこかで聞いたことのある声が、あたしたちを引き止めた。
みんなヘルメットを外し、声のしたほうを見る。
薄暗くてよく見えないが、目を凝らしてみると姿が浮かび上がってきた。
近くとも遠くともない距離に、3人組の男。
そのうち1人は見覚えがあった。
えーっと、誰だっけ?
最近会ったような……。
記憶の引き出しをいろいろ開けていると、1つの出来事を思い出した。
「あーっ! この前のナルシスト!」
そう、この前みんなでショッピングセンターに買い物に行ったときに会ったナルシストだった。
「よお、久しぶりだな。高村 菜生」
「へ? なんであたしの名前……」
「そりゃ、これを拾ったからだ」
ナルシストが手にしていたのは、あたしの生徒手帳。
「あれっ、あたし落としてたんだ」
「気づけよ、おい」
「いやぁ〜普段あんま使わないもんで」
どうもどうも、と言い生徒手帳を受け取った。
