龍のクラスは劇で忙しいし、あと誘える人といったら紘か葵くらいである。

シフトが終わり、廊下を歩きながらそんなことを考えていた。

「せっかくの文化祭を楽しまないのは損だしなぁ」


「…莉子」

不意に名前を呼ばれた気がして、振り返れば紘がたっていた。

「あれ、紘じゃないですか。クラスのシフトが終わったんですか?」

普段なら女子の悲鳴が聞こえてきそうであるが、文化祭中は各々の青春に興じているため、あまり気づかれていないらしかった。

「まあな。お前、一人なのか?」

「そうなんです、陸と一緒に回ろうかななんて思ってもいたんですけど、人気で抜け出せそうにないみたいで」

にっこりと笑ってそう言えば、ほんの少しだけ紘が無言になる。

「…そうか。だったら俺と回ってくれないか?」