さっき泣いていたサラリーマン、尾家さんがコーヒーをおごってくれた。


院内にいても落ち着かないため、外の喫煙所に向かう尾家さんに俺もついていった。



薄暗くなっていく病院の駐車場は、いろいろな想いが漂っているようで、独特の空気を放っている。



「きみが、良一くんだよね。部長……柳井さんから時々話は聞いてたよ。ま、柳井さん酔っぱらった時しかそういう話しないけど」



駐車場わきの喫煙所で。


タバコに火をつけた尾家さんは、穏やかな表情を俺に向けてきた。



「どうせ……出来損ないの息子とか言ってたんじゃないんですか?」



所詮あの親父のことだ。


アホだのバカだの怠け者だの。そんな風にしか俺のことを思っていないだろう。



しかし、尾家さんは煙と一緒に「あははは!」と笑い声を吐き出した。



「あれ。俺面白いこと言いましたか?」


「や、昔の僕にそっくりだなぁって思って」


「はい?」


「俺も新卒の頃、ずっとそんな感じだったから」



『僕』から『俺』に一人称が変わった。


尾家さんは、部長の息子ではなく、俺という存在に心を開いてくれたように思えた。