年上ぶった、上から目線での言葉。
マジで腹が立つものの、不思議なほどに心が揺さぶられる。
アリサはゆっくりとまぶたを閉じた。
長いまつげの隙間からにじみ出たのは、ひとつぶの涙。
その光に視線がひきつけられたが――
「……っ!」
しずくを振り切るように、彼女は顔をそむけた。
そして、ヒールの音を鳴らし、俺とは逆の方向へ走り出した。
「ちょっ!」
逃げられたとしても、スニーカーをはいている俺の方がスピードを出せる。
不規則なヒール音を自分の足音でかき消す。
急いで俺はアリサの腕をつかみ、彼女の動きを止めた。
「待てよ」
「やだ。離して! さわんないで!」
全身を揺らして抵抗してくるアリサ。
その勢いに押され、俺も手をゆるめようと思ったが――
待て。この態度はきっと本心とは違うはず。
俺だって気づけるようになったわ!
痛くならないよう動かせる余裕は持ちつつも、しっかりと細い腕をつかんだ。

