そのまま手を引いて、彼女を抱きしめたくなったけど。


アリサは指の力をすっとゆるめた。



――あ。



するりと、こぼれおちていくように、温もりが消えていく。


つながっていた右手が、からっぽになる。



アリサは強い瞳で俺を見つめたまま、ゆっくり口を開いた。



「ううん。行くよ」



りーんりーんと虫の声が鳴り響く、一方通行の狭いアスファルト上。


寂しげで、でも、凛とした声が、俺に向けられた。



「本当、良ちゃんは届きそうで届かないものを追いかけるのが好きなんだね」



「……は?」



「昔からそうだったじゃん。お父さんが生きていた時――いろいろ目標があった時の方が勉強も部活も頑張ってたし。あたしに彼氏がいない時、良ちゃんに近づこうとしたら突き放してくるし」



「…………」



「だから、いなくなるのが分かって、急にあたしのこと意識しだしたんでしょ。あははっ、わかりやすーい」



「違う」



「どれだけ一緒にいると思ってるの。あたしだって良ちゃんのことたくさん知ってるよ」



「違うって」



悔しいけど、否定することしかできない。


アリサの言っていることも間違いではないような気がして、具体的な反論ができなかった。