「あーもう帰ってきちゃった。あっという間だったね」



夜8時。ようやく地元の駅に帰ってきた。


それなりに人はいるものの、東京に比べたらマジでしょぼい街。


でも、こっちの方が暮らしやすそうだし、空気も澄んでいるように思えた。



「ん」



駅を出てすぐ、アリサに手を差し出した。


えへへ、と、頬を染めながらアリサは俺の指をつかんでくる。



誰かに見られたり、噂になったり、そんなのもうどうでもよかった。



地元ならではの広い星空の下。


歩幅の狭いヒールの音と、引きずるようなスニーカーの音が、合わさったり、ずれたりを繰り返す。



次第に俺らの家が近づいてくる。


今日がまだ終わってほしくないという思いがふくらんでいく。



「お前、本当に東京で1人でやってけんの? 今日もやたらナンパされてたじゃん」


「やってけるの? じゃなくて、頑張ってやってくの。心配ばかりじゃなくて応援してよ」



「じゃなくて、さ」



今、俺らの横にあるのは、ベンチと砂場しかなくなった近所の公園。


かつて集団登校の待ち合わせ場所だった、そして、雨の中、アリサにキスされた場所。



公園内に立つ灯りによって、


アスファルトに重なった影が映し出される。



立ち止まると、その影は細くつながった部分を残したまま2つに分かれた。



アリサも足を止めた。俺の一歩、先で。



つないだ手を離したくはなかった。


早くなっていく鼓動のせいで、余計なフィルターを通さずに言葉がこぼれ落ちた。



「……行くなよ」