「……え」
どっちが幸せなのだろう。
考えはじめた瞬間、
ふと視界に入ったのは、水槽のはじっこでターンをする魚。
枠のある世界に閉じこもるのは見るからに窮屈そうだ。
しかも広い海の方が、きれいなサンゴ礁とかエメラルドグリーンの海とか、素晴らしい景色を見れるのかもしれない。
でも自然の世界は弱肉強食って言うしな。
ここにいる方が、サメとかに食べられる心配も、人間に釣られる心配もない。
毎日ちゃんとエサももらえる。安心して贅沢に生きていけるはず。
「んー。どっちもどっちじゃない?」
「まあそうだけど。……じゃなくて。良ちゃんは、水槽と海、どっちがいい?」
「俺? そりゃ海がいいよ。自由な方がいいじゃん」
そう伝えると、アリサは「ふーん?」と首をかしげ俺を見つめた。
「そういうお前はどうなの?」
「本音を言うと、水槽がいいよ。でもチャンスがあれば海に出てみたい。危険なこともあると思うけど、同じ世界しか知らないままなのは嫌だから」
「…………」
目の前では、小さな魚の群れがうずを描くように移動している。
頭の中では、アリサの言葉がぐるぐる回っている。
彼女の答えにすごく意味があるような、それとも単に俺が考えすぎなのか。
言葉を返せないでいると……。
『……ぉい、うぉい』
ん? なにかの声が聞こえてきたぞ。
『本当お前ははっきりしないやつだぉ。大きな魚に食べられそうになっても俺が守ってやるよ、くらい言ってやれぉ』
――だ、誰だ!?
魚の群れが去り、すぃぃ~と俺の前に現れたのは、ふてぶてしい顔の魚。
くそ、お前か! 魚のくせに話しかけてくんな!
俺はその魚(ブダイ)とにらみ合いを続けていたが。
ぼーっとしてないであっちも見に行こうーとアリサに手を引かれ、この場を離れた。

