人はうじゃうじゃとたくさんいるけど、知っている人がいない空間。
はぐれないよう、手はつないだままにしておいた。
色とりどりの魚がすいすい泳ぐ大きな水槽に近づく。
小さな魚は群れを成して一定の方向へ泳ぎ、大きな魚は自由きままに水の中で揺れている。
ぼけーっとその様子を眺めていると、温もりを帯びた手が強く握られた。
ん? と、隣にいるアリサを横目で見る。
アリサは俺と目を合わせ、ふふっと笑ってから、水槽に視線を戻した。
「何笑ってんの?」
「小学生の頃、よく手つないでたの思い出して」
「まあ」
「良ちゃんはずっと変わらないね。手、あったかい」
改めてそう言われると、恥ずかしいような、こそばゆいような。
ただ、ガキの頃と今とでは、つないだ手の意味は違う。
それくらい俺だって分かっている。
「でも……あの時は冷たかったでしょ。雨の中で」
「ううん。つないだら温かくなったし、いつの間にか力強くなってて、離したくないって思ったよ」
いつの間にか彼女の手は、俺より小さく細くなった。
なのに、くっつけ合っていると、温かくて、安心する。
俺だって離したくなくなる。
昔っからガキ扱いされてきたけど、たまには引っ張ってやりたくなる。
「……ねぇ、こうやって大きな水槽の中にいるのと、広い海にいるのって、どっちが幸せなんだろうね」
指で水槽をなぞりながら、アリサは言葉をこぼした。

