お前調子乗るなよ、とか、彼氏いなくてどうせヒマなんでしょ? とか。


そういう答えが返ってくると思っていたのに。



「…………」



思いがけない反応にあたしも言葉を失ってしまった。



あたしから視線を外した良ちゃんも、無言のまま。


どこか1点を見つめているようで、でも、どこにも焦点を合わせていないよう。



今この空間に聞こえるのは、


1階からのテレビの音と、窓の外のかすかなエンジン音だけ。



さっきまでの言い合いが嘘のように、部屋が重い空気に包まれていく。



――どうしよう。


ノリのままに伝えちゃダメなことだったのかもしれない。



『何それ。俺もお前に捨てられる男の1人にされるってこと?』



いつかそう言われ、思いっきり突き放されたことを思い出した。



でも、あの時と今の反応は全然違う。


懸命に何かを考えているように見える。



顔をのぞき込むように見つめても、視線は重ならない。



「良、ちゃん……?」


「…………」



震えてしまったあたしの声に反応するように、


ゆっくりと良ちゃんが顔を上げた、



その時――



「アリサちゃーん、良一、ご飯できたよー!」



1階から裕子さんの声が聞こえてきた。



同時に良ちゃんは立ち上がり、ドアの方へ歩き出した。



恐る恐るあたしもその後ろを追うと。



「……俺とお前ってさ、恋人になろうっつって、『はい』とか『いいえ』ですぐ決めれるような関係じゃないじゃん」



そう言って、彼は静かに部屋のドアを開けた。