店内にただよう声たちがクリアに聞こえた頃。


フォークでパスタをくるくるし始めたエナさんは、低めの声でつぶやいた。



「私、バイト辞めるんだ」


「え、そうなんですか?」


「就活しろって親に怒られちゃってさ。良一くんと最後、仲良くなれてよかったよ」



パスタを口にしたエナさんは、

真っ赤な唇についたホワイトソースを舌でぺろりと舐め取った。



アリサよりも大人っぽく見えるその仕草に、ちょっとドキッとした。




別れる前、エナさんは髪の毛を耳にかけながら、ニヤリと俺に笑いかけてきた。



「ねぇ、良一くんは、この前店に来たあの可愛い子のこと、好きなの?」


「人としては好きっすよ」


「そっかぁ。実は、あの子見たおかげで諦めがついたんだ。私なんかよりも絶対お似合いだから、頑張ってね!」


「はい?」


「あ、バイトのみんなで私のお別れ会とかしなくていいからね。寂しくて辞めれなくなっちゃうから。じゃーねー」



ぶんぶんと手をふりながら、


エナさんは駅前の人ごみへと消えていく。



俺は片手をあげて見送りつつも、複雑な気分になっていた。



「はぁ……」



エナさんもだけど、どうしてどいつもこいつもアリサのことを口にするんだ!


しかもさっきの俺の発言はラブじゃなくてライクの方だ!


自然に『好き』という言葉が出たことには自分でもびっくりしたけどなっ!