「ごめん。俺どうせ彼女いたことないから。やっぱよく分かんねーわ」
仕方なく自虐に走ることにした。
コーヒーをすすった後、恐る恐るアリサの顔を見る。
長い下まつ毛に光がからまっていて、今にも一筋、こぼれそうになっていた。
――まただ。
たかが何気ない言葉で、すぐに感情を動かす。
ただ、涙を我慢している様子に胸が震えたのか。
いつもみたいなイライラが押し寄せてはこなかった。
きつそうに結ばれていた彼女の唇が、ゆっくりと動いた。
「別れるのは怖いよ。だって、良ちゃんがかまってくれなくなるかもしれないから」
ぽろり、と手にしていたチョコパイのかけらが、床に落ちた。
意味が分からなかった。
「は?」と不機嫌な声が自然と出てしまった。
なんで俺が、コイツの恋愛事情に関係してるの?
ってか何で俺のせいなんだよ。
頭の中で、いろんな思考が絡み合っていく。
でも、今は、彼女を泣かせたくない。
ドア越しに聞こえた、彼氏への抵抗の声を思い出し、
今は、心を落ち着かせてあげたいと思った。
「……お前に彼氏がいてもいなくても俺は変わんねーよ」
俺は諭すように伝え、彼女の頭を撫でようとした。
しかし、ディフェンダーをかわす名フォワードのごとく、アリサは俺の手をかわし立ち上がる。
何か昔もこういうことあったような……と思いつつ、行き場を失った俺の右手は空中で止まる。

