ワカの気持ちはわかる。

でも、あたし…



「初めてなのに」



こんな年になって言うことじゃないけど。



「え!?」


「あたしもうこんな年だけど。いままで誰とも付き合ったこともないし、もちろんキスだってしたことないよ」


「あー、まじか…」



少し気まずそうな顔になるワカ。



「なかったことにする」


「は?」


「事故にすればいい」


「ムカつく」



ワカに腕を掴まれる。



「帰ろ。みんな待ってる」



キスなんてしてない。
してないんだ。
好きな人としかしちゃダメなんだ。



「キスしたんだからな。瑛梨奈の唇の柔らかさとかもう忘れないから」



唇に手が触れてゾクッとする。

なにこの感覚。
あたしがいままでしてきた恋愛は
ただあの人が好きとかしかなかったから。

ずっとずっと星那のことしか好きじゃなかったし。
ここを離れるときにその想いをすてて出会ったのが塁くんだった。



「忘れさせないから」



ワカのその目があたしの脳裏にそれからもずっと残っていた。