心ときみの物語


12段の石段を滑ることなく上りきった俺は拝殿の扉をガラッと開ける。

「あー切れなかったね」

俺は冷えきった部屋を暖めるために電気ストーブとこたつのスイッチをすぐに入れた。

「かった、ということは試したことがあるんですか?」

小鞠の興味津々って顔。


「あるよ。お前がうるせーから切ってやろうと思って」

「な……ひどいですよ!」

小鞠のことは冗談だけど、切ることを試したのは冗談ではない。俺にだって切りたい縁のひとつやふたつある。

ずっとうるさかった胸のざわめき。

その踏みしめる音と一緒に階段を一歩ずつ、ゆっくりと。


「たまにはこたつでエニシさまと真面目に語り合おうと思ったのに」と小鞠が急須にお湯を入れる。

そして、茶葉が色づく前に俺は立ち上がった。


「ん?どうかしました?」

そんな小鞠の声はもう耳に入らずに、俺は扉に手をかけた。やっと暖まってきたところだったのに冷たい空気が肺を通りぬける。

そこにはベージュのダッフルコートを着て。淡いブラウン色の髪の毛に片方だけ耳を出して、キラリと花の形をしたピアスが光る。

透き通るような白い肌。不安そうに眉を下げるその瞳。


「……縁(えにし)」

そう、俺の名前を呼ぶ。


――『ご自身の縁は切れないんですか?』

切れないよ。切れなかったよ。

だから俺はずっと待っていたんだ。

きみが俺との縁を切りにくるのを、ずっと。