人の家庭の事情は分からない。
どんな生活があって、どんなすれ違いがあったのか、なんて聞いたところでなにかしてあげられるわけじゃない。
八重はその寂しさを紛らわすようにまた笑顔を作った。
「エニシさまのご家族は?」
まるでタイミングを見計らったかのように本殿から親父が出てきて思わず笑ってしまった。
「んーアレ」
不器用に指をさす。
親父は高嶺神社の神主。神主にも階級があって、親父が着ている赤色の袍(ほう)と紋である輪無唐草(わなしからくさ)は誰でも着用できるわけじゃない。
俺も跡を継ぐならちゃんと勉強して資格を取れってうるさく言われてたっけ。
「あら、立派なお父さまね。お母さまはなにを?」
「母ちゃんは普通の専業主婦だよ。飯作って洗濯して掃除して。親父の世話もそつなくこなす。
八重だってそういう妻と母親をやってたんだろ?」
だから尊敬する。
男は両立って言葉が苦手な生き物だし、主婦業なんか外で働くよりよっぽどきつい仕事だ。



