境内の中では参拝者を出迎えるように、紅葉が風に乗って行き交っていた。そして俺は社務所の近くにある石段の前で八重を下ろした。
「私、帯留めが落ちてないか確認してきますねー!」
小鞠はそう言って小走りで階段を上っていった。その後ろ姿を何故か八重は愛しそうに見つめる。
「小鞠さんは可愛くて元気ね」
「それが取り柄みたいなもんだからな」
八重はクスリと笑って、肩に落ちてきた紅葉を手に取った。少しの沈黙。そのあとに言葉をかけたのは俺のほう。
「寂しいんだろ?」
ざわっと風が俺たちの間を通り抜けた。
あの広すぎる家には生活感があまりない。玄関には八重の下駄だけが置かれていて家には思い出らしき品や写真すら1枚も飾られていなかった。
その優しい笑顔の裏側に見えるのは孤独。
だから小鞠も気を遣って外に連れ出したんだと思う。
すると心の紐をほどくように八重は静かに話はじめた。
「私ね、亡くなった夫とは籍を入れずに内縁関係だったの」



