心ときみの物語



着いた先は喫茶店。

理由は単純にコーヒーの値段が安かったから。

「どうぞ」と店員が俺の前に湯気の立ったティーカップを置いて、椎名雪乃は普段にアイスティーを注文した。

俺はホットコーヒーをひと口飲んで、このジャズのような店内にかかる音楽のように緩やかに口を開く。


「きみは椎名雪乃で間違いないよね?」

「……はい」

こんな確認は一応建前で、俺はダラダラとやるのは好きじゃないからすぐに話は本題へ。


「じゃあ、雪乃。これの意味ちゃんと分かってる?」

これ、と指さしたのはテーブルの絵馬。

営業スマイルはどこへやら。あんなの続けてたら顔の筋肉がおかしくなる。次に口を開いたのはずっと無言だった雪乃だった。


「あの……!」

ガタッとテーブルのコップが揺れた。

その顔を見てちょっと嫌な予感。

もしかして〝やめる〟って言い出すとか?いるんだよな。勢いだけで書いちゃって、あとで後悔するやつ。


まあ、べつにいいけど。

悪徳商法じゃねーし、中途半端な覚悟でされても恨まれるのはこっちだし。

俺は冷静にまたコーヒーを口に運ぶと、雪乃が前のめりになりながら言った。


「あなた本当に〝エニシさま〟なんですか?」

「は?」