80年の月日の中で進は年を取ってシワの数が増えて、もう幼いままの進ではない。だけどそれがなによりも嬉しくて、進の命の炎は消えていなかった。
消えてなどいなかったのだ。
「……小鞠……さん?」
進が小鞠の顔を見つめた。その変わってない面影に驚くと思いきや進はニコリと微笑む。
「ああ小鞠さん。小鞠さんだね」
90歳になった進の手を小鞠はすぐに握って顔を近づけた。
「そうですよ。小鞠ですよ。進さん……進さんっ」
小鞠は確かめるように何度も何度も名前を呼んだ。
そのあと進は記憶を手繰り寄せるようにゆっくりとした口調で話はじめた。
「僕はずっときみにお礼を言いたかったんだ。あの頃病で腫れ物のような扱いをされていた僕に触れてくれたこと。それで僕がどれだけ救われた気持ちになったか。感謝という言葉では表せないぐらい」
もう起き上がることができない進の目から一筋の涙が流れた。
「でも進さん、私……」
「きみはあの日から僕に会いにこなくなったね。僕はあのあと病院に運ばれて、たまたま海外の先生に巡りあって麻疹を治すことができたんだ」
「………」
「あの時外に出て倒れなければその出逢いもなかった。僕はあの東側の部屋でその命を終えていただろう。だから小鞠さん。僕がこんなにも長生きできたのはきみのおかげだよ」
進はそう言って小鞠の手を握り返した。



