そのあと小鞠の記憶だけを頼りに歩いて。昔川があったことを示す石碑を見つけて、その通りに並ぶ一軒家の前で俺たちの足は止まった。
〝大塚〟と書かれた表札。
小鞠の横顔を見て、当時と家の形は違うけど80年前に進の家があった場所はここだと分かった。
「エニシさま……私の鼻がおかしくなったんでしょうか?」
門の前に立つ小鞠の瞳が潤んでいく。
「進さんの匂いがするんです。ヘンですよね。
だって進さんは……」
俺は戸惑う小鞠の腕を掴んだ。「それを確かめにきたんだろうが」そう言って庭先へと足を踏み入れる。
ゆらゆらと白いカーテンが揺れていて、縁側の先にある部屋は眩しいくらい日が射し込んでいた。
風が通るように窓が開けられていて、そこには介護用の大きなベッドがひとつ。そこに導かれるように小鞠が部屋の中へと入っていった。
ベッドで眠っているひとりの男性。人の気配に気づいたのか静かに目を開ける。
「……進さん」
先に声を出したのは小鞠のほう。



