心ときみの物語


***


小鞠を連れて神社の外に出た。80年前と様変わりしている街の景色に小鞠はキョロキョロと落ち着かない様子。

「進が生きていたら90かあ……」

俺がそう言うと小鞠はうつ向いた。


「あの当時麻疹は不治の病でした。治って元気になってる可能性は限りなく低いです。それに……」

「……それに?」

「あのあと進さんは一度も神社には来なかった。だから〝そういうこと〟なんだと思います」

つまり、進はもう生きていない。

90歳の現在でも生きているか分からないのに年を積み重ねる前に命の炎は消えたのだろうと、小鞠は考えていた。

そして、小鞠が歩く足をピタリと止める。

「分かっているんです。分かっているんです……でも。麻疹という病でもなく進さんの寿命でもなく、もしあの時私のせいで……私のした行動のせいで進さんが死んでしまっていたらどうしたらいいでしょうか……っ」

何度そうやって自問自答を繰り返したのだろうか。

それを確かめるのが怖くて会いにいかなかった。
それを知るのが怖くてもう人にはならないと決めた。


「どうもしねーよ。それを忘れたいなら俺を使えばいい。でもな、ひとつだけ教えてやる」

「………」

「忘れたいと忘れたくないの区別を間違えることだけはするなよ。どうしたって忘れられないものは心に残しておくべきだと俺は思う。それは孤独からは決して生まれない感情なんだ」

人との関わり合いを知ったからこそ持てたもの。

それを持たずにラクをして生きるのか、それを持って苦しみながら生きるのか。

最後に悔いなく人生を終わりにできるのはどっちなのか。

小鞠は俺の言葉を聞いてずっと黙ったままだった。