心春が歩んでいく人生の中で運命を変えるような出逢いも分岐点もいくつかあって、そのいく通りの道に俺はいない。
もう関わることはできない。
歳を重ねていくきみを見ていることしかできないんだ。
「俺が幸せにしたかった。できるなら、一生を添い遂げたかった」
でもそれはもう叶わないから。
だから今だけは、この瞬間だけは高嶺縁に戻らせて。
「心春、きて」
俺はゆっくりと両手を広げた。
その背中を押すように朝日が俺たちを包んで、
心春の瞳からダイヤモンドのような粒が流れたあと、勢いよく俺の胸に飛びこんできた。
ギュッと痛いぐらいその小さな体を抱きしめて、心春もそれに応えるように背伸びをして俺の背中に手をまわす。
ずっとこうしたいと思ってた。
病室で力が入らない中、何度その顔に触れたいと思っただろう。魂だけになって泣いている心春を見て、その涙を拭いたいと手を伸ばしたのは何回だっけ。
本当は触れたかった。
本当はその一線を越えてしまいたかったんだ。



