たしかに俺は強くない。
あの日々をもう一度経験しろって言われたら迷わずに逃げるだろうし、病気で弱っていく自分を見たくなくて、わざと鏡を割ったこともあった。
それぐらい俺は弱い人間だ。でも……。
「俺は心春に救われたよ。何度も何度も心春がいてくれて良かったって思ってた」
あの病室の扉からひょっこり顔を出す姿。来る時間はだいたい分かっているのに自然とそっちに視線が向いて。
早く来ないかな、早く会いたいって、時計の針をぼんやりと見つめながらその進みの遅さにため息をついたこともある。
「だから別れようなんて言えなかった。心春のためだって言い聞かせてたけど違うな。言わなかったのは自分のため。俺が心春を失いたくなかったんだ」
それぐらい好きだった。
ずっと向き合うことを避けていた本音。それを伝えると心春は涙を流して微笑んだ。
「私たちってずっと一緒にいたのに肝心なことは言えてなかったんだね。私も縁にたくさん伝えたいことがあるの。だから絵馬を書いて神社に……」
と、その時。周囲がざわざわとしはじめて、雲の向こう側が灰色からオレンジ色になった。



