頂上に着いて、またタイミングを合わせてロープウェイを降りた。そこにはすでにカメラを構える人の姿もあって、俺たちは展望台の手すりの前に立った。
標高2600メートル。そのひんやりとした空気が肺に入って冷たい。
――『ねえねえ。入江町の朝焼けって知ってる?』
あれから随分と時間が過ぎてしまった。
だけど最後のワガママとして心春がここを選んだこと。そして俺もそれを受け入れたことには意味がある。
「ねえ、縁」
心春は銀色の手すりを握って色が変わりはじめてきた雲を見つめた。
「私ね、この2年間ずっと縁のことばかりを考えてた。なにをしてもなにを見ても縁がいればなって、その姿を探す毎日だった」
「………」
「振り返ると後悔ばかりなの。縁が病気になって長い闘病生活をしてる時、私は前向きなことばかりを言って縁の心が折れないように必死だった。そうすれば必ず試練は乗り越えられるって信じてたから」
「………」
「だけど考えてたみたら弱音をはかせるチャンスを私が奪ってたんじゃないかって。縁は私を変えてくれたヒーローだから、勝手に縁が強い人だって思いこんでた」
心春が目に涙をいっぱい溜めて。でもそれを溢れないように堪えていて、気づくと俺は手すりを強く握っていた。



