心ときみの物語



バスを降りて地面に足を着けた。辺りはまだ薄暗くてどうやら予定どおりのようだ。自動販売機で温かいお茶を2本買ってその片方を心春に渡した。

「ありがとう」と心春はそれを頬に当てる。

俺たちはそのままロープウェイ乗り場へと向かって、受付で乗車券を2枚買った。階段を上って係員に案内されながらロープウェイの順番を待つ。

吹き抜ける風が冷たくて隣で心春が肩を縮めていた。その悴(かじか)んでる手に触れようとしたけど、やっぱりそれはできないと諦めた。

暫くしてゆらゆらとロープウェイが俺たちの前に流れてきた。タイミングを合わせて中に乗り込むとガチャリと係員がドアに鍵をかける。


「私ロープウェイって実は初めてなんだ。だからちょっとドキドキしちゃう」

心春は傾斜をどんどん登っていくロープウェイに興奮気味だった。


「はしゃいでると落ちるぞ」

「え?落ちるの?」

「んなわけねーだろ」

俺も窓の景色に目を向けて、さっき乗り込んだ場所が小さくなって生い茂る木々を追い越していく。


「綺麗に見れるといいよね」

心春は山の頂上を心配そうに見つめた。

天気は晴れのち曇り。時々にわか雪というすごく不安定な予報だった。この町に雪が降った形跡はないし、これで降り始めてきたらもうどっちかが雪男か雪女ということで笑うしかない。