心ときみの物語



街灯の明かりに照らされて、俺は待ち合わせ場所へと急ぐ。

――『明日……明日だけ私の最後のワガママを聞いてください』

夜光バス乗り場で待っていたのは神社に来た時と同じベージュのダッフルコートを着た心春。


「おはよう縁」

気温は3℃。白い息をはきながら心春はニコリと笑った。

そのあとバスに乗り込むと乗客は俺たちの他にいなくて貸し切り状態。一番後ろの席に座ると足元からは暖かい熱風が出ていた。

バスはゆっくりと発車して、道路を通りすぎる車も長距離トラックやタクシーだけ。

「はい」

俺が窓の景色を見ていると心春は小さなキャラメルをくれた。同じタイミングで口に入れて甘い味がすぐに広がる。


「ごめんね。朝起き苦手なのに付き合わせちゃって」

「心春」

言葉を被せるように俺はその顔を見た。

たぶん心春も一睡もしてないと思う。この快適なバスの揺れは無条件で眠気を誘う。だけどそれを惜しむぐらい、並んで座る俺たちの距離は近い。


「謝るのはなしにしよう。すぐに心春は謝るから俺も今日は謝らない」

まだ気持ちがまとまってないけど、バス停に向かう途中でこれだけは最初に決めた。

「うん。そうだね。でも縁が私に謝ったことなんてあったかなあ?」と心春の表情がゆるむ。


「あーないな。俺は間違ったこと言わないしな」

「はは。うん。縁はいつも正しいよ」

「バカにしてんだろ」

「してないしてない」

そのあと20分バスに揺られて。その間眠いのも忘れるぐらい心春と下らない話をして笑った。