心春は「あはは……」と苦笑いをしたあと、また癖である右側の髪の毛だけを耳にかけた。
「風の噂で裏絵馬のことを知ったの。そしたら場所は高嶺神社だし、縁切りの神様の名前は〝エニシ〟だって聞いて。絶対にそうだって思って。だから会いに……」
それに俺はピクリと反応して、ポケットから心春が書いた絵馬を取り出した。
「ここに名前を書いたってことは結んでいた縁を切るということだ。つまり俺たちは他人になる」
「違うっ……。ルール違反かもしれないけど私は縁に会いたくてそれで……っ」
「心春」
俺は低いトーンで名前を呼んだ。
「俺は自分で自分の縁を切ることはできない。
だからずっと心春が俺との縁を切りにきてくれねーかなって思ってた」
「………」
「心春。早く俺を忘れろ。頼むから忘れてくれ。それができないなら……俺はお前との縁を切る」
今度はちゃんと突き放す。
涙を浮かべる心春の頭を撫でたり、手を握ったり、そんな優しいことはしない。
高嶺縁はもういない。
その姿をどんなに追っても、どんなに恋い焦がれても。同じ体温で重なることは永遠にないのだ。



