心ときみの物語



「本当に好きだったんですね。心春さまのこと」

小鞠がわざと同じ言葉を繰り返す。


……好き、ね。

ただの好きなら良かったんだ。

ちょっと将来を考えて。お互いに歳を重ねた姿まで想像して。ただの好きなら良かった。

それぐらいの気持ちだったらどんなにラクだっただろうか。


俺は死んだあと、すぐ魂だけになった。

さっきまで俺だったものは、もう形としてそこで眠るだけ。

その傍では母ちゃんと遅れて駆けつけた親父が泣いていた。心春は暫く俺を黙って見つめていて、まだ現実として理解できていなかったんだと思う。

だけど葬儀を終えて、火葬の時。もう灰になってしまうその瞬間に心春は俺の柩(ひつぎ)にしがみついて泣いた。

それはもう今まで聞いたことのない声で。


そんな泣きじゃくる心春を見て、俺はひどく後悔した。

どうして突き放してやれなかったんだろうって。ずっと〝別れよう〟って言葉は浮かんでいたのに。

こうなる前に、病気が分かった時点で俺が言わなきゃいけないことだったんだ。


それなのに、どんなに後悔しても心春の瞳に俺は映らない。

だから唯一、この気持ちがなくなる方法があるとするなら、心春が縁切りの依頼をしにきてくれることだけ。