「……心春」
「ん?なに?」
喉まで出かかっている言葉をなかなか言うことができない。
「あ!点滴はずれちゃってるよ!」
心春はそう言ってすぐにナースコールのボタンを押す。針がむき出しになった箇所を手で押さえて、テープで貼られていたガーゼからは血が滲んでいた。
――『笑い事じゃないよ!考えてみたら昔から血とか針とか苦手で……。だから勢いで開けたけど左耳はもうムリかなって』
そんなことを言っていた心春が今じゃ懐かしい。
ピアスひとつ開けるのに貧血で倒れたくせに、俺の点滴針を刺す時はいつも目を反らさずに見ているし、吐き気がした時は枕元にある洗面器をすぐに差し出す。
いつから、そんなに強い女になったんだよ。
俺がそうさせてしまったことは痛いぐらい分かっている。
この9か月の間、心春も一緒に戦っていた。
いつも俺の前では笑って明るく振る舞っていたけど、病室を出ると泣いていることも、その丸くなった背中をこの窓から何度見たかもう数えきれない。
ごめん。
その言葉をずっとずっと繰り返してる。
「ねえ、縁。私ね、縁といっぱい行きたいところがあるよ。だからゆっくりゆっくり治していこうね」
心春は俺の細くなった手を力強く握った。
その強さから解放してあげられる方法を俺は知っていたはずだった。だけど言わなかった。
言えなかった。
そして俺は23歳になったばかりの6月。
病院のベッドの上でその命の期限を終えた。



