心ときみの物語



そんな治療と生活が続いて、俺は病室の窓から季節の変化だけを見つめる毎日。

うるさかった蝉たちは姿を消して、新緑の葉を紅色に変えた。それが散って空からパラパラと幼い雪が降り、眠っていた植物が目を覚ますと、季節はいつの間にか春になっていた。


「縁。着替え持ってきたからここに置いておくわね」

母ちゃんの声。扉のほうに顔を向けてもその表情はぼんやりとしか分からない。腫瘍の圧迫で俺の視力は下がって、ほとんどのものが見えづらくなっていた。

しかもあんなに苦しかった抗がん剤治療はあまり効果がなくて、残ったのは10キロ以上痩せた体に、自分では動かすことができない麻痺している手足だけ。

「……母ちゃん」

「ん?」

「親父は?」

「仕事よ。春は色々と神社も忙しいからね」

「……そっか」

自分の命の期限なんて考えたことはなかった。
普通に暮らして、普通働いて、いずれ誰かと結婚したり子どもが生まれたり。

それで神社の跡を継いで、80歳まで生きられればいいやってそれが俺の人生の設計図だったはずなのに。

「母ちゃん、ごめん」

治ると信じて献身的に俺の身の回りのことをしてくれて。親父も口には出さないけど治療費は相当な金額だと思う。

「あら、そんならしくないこと言わないでよ!」

母ちゃんはわざと後ろを向いて花瓶を替えるふりをした。