心ときみの物語



「ねえねえ。入江町(いりえちょう)の朝焼けって知ってる?」

この日は珍しく購買でパンを買って。講義がはじまるまでの時間を中庭で過ごしていたら心春が俺を見つけて駆け寄ってきた。その手には絶景オススメ30選のガイドブック。


「また小百合の影響だろ」

「もーまたそんな言い方して」

今じゃ心春と休日にケーキバイキングに行くほど仲良くなった小百合は超がつくほどのアウトドア派。こういう本や行列ができる店を調べては心春に薦めている。

「見て見て、ここ」と心春がページを指さした。俺はカレーパンを食べながら横目で確認。

入江町にある山をロープウェイで10分。標高2600メートルを登り、そこの山頂から見える朝焼けの景色。

その写真には真っ赤に燃えるような空に雲の隙間から顔を出す朝日。たしかに絶景だと思うけど……。


「この朝日を見たカップルは離ればなれにならずに、ずっと幸せでいられるんだって」

心春が目を輝かせて言った。


「そんなの誰が言ったんだよ?」

「言ったじゃなくてここに書いてあるもん」

「へえ」

そういうパワースポットだったりジンクス的なものには興味がない。神社の息子がこんなことを言ったら怒られるかもしれないけど。

俺の乗り気じゃない顔を見て、心春がムーッと頬を膨らませた。それを風船のように指で突っついたあと、ポケットから〝あるもの〟を取り出す。