「あれ心春だったの?」
「あれ縁だったの?」
同時にふたりの声がハモる。なんだかおかしくなって笑いが止まらない。
「マジか。ずっと忘れてたけど普通に思い出したわ。うん。たしかに顔の面影は残ってるかも」
困った時に下がる眉とか、自信なさげに見る瞳とか。
「わ、私ね!あの時『顔を出したほうがいいよ』って言われてずっと長かった髪をバッサリと切ったの。あとうつ向いて顔に髪がかかりそうな時は耳に髪をかけて。おかげでそれをするのが癖になっちゃった」
たしかに心春は右耳の髪の毛をいつもかける。
それがあの時の出来事と繋がっていたなんて夢にも思わなかった。
「そっか。あの男の子は縁だったんだ……」
少し目を潤ませて心春が言う。
「なんかすごいね!感動しちゃった」
「………」
「今日は本当にここに来れてよかった。だってそうじゃなきゃこんな話にはならなかっただろうし、そしたら一生知らないままだったかも」
「………」
「知らないままで終わらなくてよかった」
そう笑う心春の顔に俺は触れていた。
そのままあの日のように右耳に髪をかけて。少し迷って、だけど止まらなくて。
「俺、お前のことが好きだ」
初めて誰かに告白をして、初めて自分から手を伸ばした。
心春は驚いた顔をしていたけど、またすぐに笑顔になって。そして俺の手に触れる。
「私も縁が好きです」
運命という言葉は安っぽくて使いたくない。
でも、それを信じてしまうほど恋は人を変える。
この日から俺と心春は付き合うようになった。
桜が舞う大学2年の春だった。



