心ときみの物語



「その時私、迷子になっちゃったの。一緒に来てたお母さんの手を離しちゃって」

「………」

「怖くて泣きじゃくってたら男の子が……」

「あー!」

次に大声を出したのは俺。

思い出した。あれは小学1年の夏。小学生になったお祝いだって出店の人たちからあれやこれやを貰って腹がパンパンだった時。

人混みの中に同い年くらいの女の子を見つけた。

すごく泣いているのに大人たちは出店に夢中で気づかないし、太鼓の音でその泣き声がかき消される中、俺は声をかけたんだ。


『迷子か?』

聞いても泣いてるだけ。困ってリンゴ飴を差し出しても首を横に振る。それで俺は仕方なくその子の手を引いて、関係者だけが入れる簡易テントの中に連れていったんだ。

すぐにそこにいた大人が迷子のお知らせをアナウンスしてくれて。迎えがくるまで俺はずっとその子の隣にいた。


『名前は?』『小学校は?』『なんか飲む?』
なにを聞いても答えないからだんだんとムカついてきた。

『あのさ!』

強めに言うとその子は怯えた目で俺を見た。

言おうとしていた言葉も忘れて。あれ、ちょっと可愛いじゃんとか生意気なことを思いつつも、邪魔そうに伸びる前髪と貞子のような長い髪があまりに鬱陶しそうで。

『顔出したほうがいいよ』とその子の右側の髪の毛を耳にかけたんだ。