「今日はコーヒーじゃないんだ」

クツクツと聞き覚えのある笑い声がして、胸が高鳴る。
幻聴かと思って振り返ると、今一番会いたかった人が微笑んでいた。


「おつかれさま」

「風見さん……」


なんでここまでベストなタイミングで現れるのだろう。

こんな疲れ切って、落ち込んでる時に。

「遅くまで大変だったね」

風見さんは、優しい笑顔で、私の頭をポンポンと撫でる。

「風見さん……なんでここに??」

「仕事終わり。今日、玲奈ちゃんがうちの店きててさ、”有希、大変な仕事押し付けられて、残業してるー"って言ってたから」

「それでわざわざ……??」

「心配だったんだ。有希ちゃんから連絡も返ってこないし。返事くるまでここで待ってみようかなーって」

「……っ」

困ったように笑う風見さんに、安心感が溢れて、泣きそうになった。

「何か、嫌なことでもあった?」

優しい声。

鼻の奥がツンとして、視界がぼやけて、言葉に詰まる。
握りしめたミルクティの缶を見つめた。

自分が思っていた以上に心が折れていたみたいだ。


「あーあ、泣かないでよ」

風見さんは、私を抱き寄せる。

「ごめんなさ……っ」

彼の胸を借りて少しだけ、泣いた。
仕事終わりの彼からは美味しそうな匂いがした。