「小屋の周りに私兵と思われる者がいるのですが、…………戸判(ホパン:戸曹判書の略)様の私兵のようです」
「何っ?!………それは誠か?」
「はい、………残念ですが」

戸曹判書は世子嬪の実父である。
漢陽でも有名な名家である上、長きにわたって朝廷に携わっている者でもある。

戸判は、領議政(ヨンウィジョン:総理大臣のような最高官職)率いる南人派(ナミンハ:政治派閥の一つ)に属し、王室と婚姻関係を結んだ事により、政治的な立場から距離を置いている者。
朝鮮では外戚関係になると、権力を誇示してならない事になっているのだ。

更には、温厚な性格で有名な人柄ゆえ、役職はあれど、権力を誇示するような人では無い。
それが、何故……?

「見間違いかもしれん。この目で確かめる」
「ですが、多勢に無勢。あまりにも危険でございます」

王宮から選りすぐった親衛隊を連れて来ているとは言え、その数は十数名。
戸曹判書の私兵は少なく見積もっても三、四十人ほどいると言う。

「遠くから確認するだけだ。嫌なら付いて来なくともよい」
「世子様っ!」

ヘスはヒョクの言葉に耳を貸さず、すぐさま採掘場へと向かった。



清州の街から東に向かい、俗離山(ソンニサン)と九屏山(クビョンサン)の山間に問題の小屋はあった。
周りは木々に囲まれ、山道からかなり奥まった場所にある為、人目には付かず分かりづらい。
それゆえ、今迄見つからなかったようだ。

ヘスは大木の陰に隠れながら、小屋を見下ろす。

「何故だ……?」

ヘスの視線の先には、見覚えのある戸曹の私兵がいた。