「私の入宮とは、女官としてではなくて?」
「は?」
「生涯、傍で見守るのは、友としてですよね?」
「………」
「あ、友でなくても、義兄妹の契りとか?」
「待て待て待て待て…」

何をどう考えたらそうなるのか。
だから、あんな表情だったのか。
曖昧な言葉だから、きちんと伝わらないのだな。
それならば、『はい』としか言えぬように言えば済むこと。
無意識に口角が持ち上がった。

「勿論、女官ではない」

ソウォンの瞳に己が映る。

「嬪宮とは国婚した時から、慕う女性が現れるまでという約束をしていて。彼女の慕う相手は女性で、無論私など眼中に無い。お互いに利害が一致していた事もあり、これまでお互いに協力関係を維持して来た。そこへ、そなたと再会したという訳だ」
「では……」
「ん、私が慕う相手はそなただと話してある。勿論、王様にも」
「っ…」

ヘスはソウォンの腰を抱き寄せた。

「私の妃はそなただと、十年前に約束した……よな?」
「っ」

ソウォンの髪から薔薇の香りが鼻を抜けてゆく。

「世子嬪だと申したのは私ではなくそなただったはずだが?」
「っ!!」

十年前のあの日を思い出したのか、ソウォンは目を見開き、硬直した。

忘れもしない、あの日を。
生まれて初めて頬を叩かれたのだから。
しかも、胸元から香油や香袋のような匂いではなく、砂糖菓子のような甘い香りがしたのを今でも鮮明に覚えている。

ソウォンの腕に着いているメドゥプ(飾り紐)を指先でそっとなぞる。
以心伝心、一蓮托生の意味も込めて、対で作らせたメドゥプ。

彼女の目に留まるように袖先を捲り、自分のメドゥプを見せる。

彼女のメドゥプは小豆色。
私のメドゥプは松葉色。
華やかで無い色合いだからこそ、いつでも身に付けていられるのだ。