「自立したい…」

「は?」

私が呟いてしまった言葉にトーマが反応する。


「高校出たらひとり暮らしするのか?」


私が思ったこととは別の意味で捉えたトーマは振り返りながらそう訊ねた。


「え、あ、ああ、うーん、どうだろうねーもしかしたらそうかもー」


誤魔化そうと適当に返すと「ちゃんと人の話は聞け」とまた怒られた。


「そういうところだよな。だからお前は昔から…」

「あーはいはい分かりましたよどーもすみませんでした!」

私が一息に言いきると「その言い方はないだろ」とトーマはさらに眉間にシワを寄せたけど、それは一瞬のことだった。すぐにシワはなくなった。


「で、どうなんだ?」


どうやらトーマは本当に私の進路が気になるようだった。


「まあ、ひとり暮らしは憧れるけど…」


そっと未来に思いを馳せる。

想像してみる。


もし私が高校を卒業したら。


『高校卒業おめでとう!』

『お前も高校卒業したんだからちゃんとするんだぞ。ハンカチやティッシュを忘れんな』


…もし私が大学生になったら。


『大学生になったねー!』

『もう大学生なんだから最低限身の回りのことは自分で出来るようになれ。あと寝坊するな、講義に遅れるだろうが。遅くまで遊んでんじゃねぇよ、夜道に女子が一人なんて危ないだろうが』


…………もし、私が社会人になったら。


『お前社会人だろ?いい加減大人だろ?何やってんだよ、んでこんな簡単なこともできえねぇんだ。部屋も汚ねえしすぐ汚れるし。ほんとに結婚できんのか?』


…想像はここでやめた。

思いの外、精神的疲労がすごい。

どっと疲れる。どっと。