《南帆side》



「な、によ……あれ……」


斗樹が出ていってからも顔の火照りは全くと言っていいほど冷めてくれなくて、どうしたらいいのか分からずにただ布団の中で鳴り止まない心臓の音を聴いていた。


あんな斗樹は初めで…いつもヘラヘラしてるくせにあのときの斗樹はちゃんと一人の“男”だった。


大きな背中、大きな手、少し浮き出た喉仏
甘く耳に響く低音ボイス
全てが小さい頃の斗樹とは当たり前だけど違うかった。


それまで意識して見てなかったせいなのか彼の大きな変化に鈍くなっていた。


私のことを獲物を捉えたオオカミのような瞳で見てるくせに優しくも切なくも感じれた。
思い出すだけでもドクンドクンと心臓がうるさくなる。


怖かった、というのとは少し違うくて、長年一緒にいた幼なじみの見たこともない顔を見て動揺と戸惑いが私の心の中を支配していた。


私にキスしようとした…その唇も、私の唇の上に重ねられた大きな手もすべて私の心臓を刺激するものだった。



まるで、私に“俺も男なんだ”と当たり前のことを訴えかけているようで……。



こんなに斗樹でいっぱいになるなんて……信じられない。
なのに、違和感を感じないのは何でだろう?