「誰もそんな事言ってないし」



一気に笑いも冷めて、ほっぺたを摘んでいる手を真顔で退かす。



「うわ、さっきと違いすぎだろ。二重人格か?」


「斗樹だけには言われたくないんだけど」



というか…それ私がさっき斗樹に対して思ってたことなんだけど…。


そんな思考的なところまで一緒になってきてるなんてなんか不思議だなあ。



「まあ、俺は本気だってことはちゃんとこの賢いのかバカなのかわかんねえ頭の中に入れとけよな」



その返答に仕方なく、一度だけ小さくコクンと頷けば、斗樹は満足そうに笑い、頬にえくぼを作った。



それから、私たちは食事を済ませて家へと続く帰り道をノロノロと二人並んで歩いていた。



「今日は奢ってくれてありがとう」


「どういたしまして。
つーか、今回はちゃんとお礼言えたんだな」



「当たり前でしょ。私を誰だと思ってんの」


「ミナはミナだな。
他の誰でもない、冷たいけどまあまあ優しい女」



そういうと、彼の頬は孤を描くように上がり、月明かりで照らされて一段と魅力的に見える笑顔を見せた。



斗樹は言っていたとおり、夜ご飯を奢ってくれた。


いつもなら自分のものを買うのにもお金を渋々出すぐらいなのに今日はスマートにかっこよくスッと出すもんだから驚いた。



だから……斗樹は本気なのかもって思い始めたことは彼には内緒にしておこう。