私が立ったのをいいことに許可なく勝手にひょい、と私の体を持ち上げてお姫様だっこをした。
すると、私たちを囲む人たちが悲鳴に近い声を上げる。
「ちょ…!ちょっと…っ」
急いで降りようと足をバタバタするけど斗樹はそれを許さないように私をもっと自分の胸の方に寄せた。
ドクドクッ、と斗樹の鼓動が加速しながら音を立てているような気がする。
「黙って、俺に甘えろ。」
そういった斗樹の表情はいつものおチャラかささ1ミリもなくて、ただ無表情で私の瞳を見つめる。
そんな彼はスポーツをした後…いや、していて最中だったから汗がしたたるいい男に思えてきて不覚にも少しドキドキしていた。
「なっ…」
「ちなみに拒否したらどうなるか分かってるよな?」
また表情をコロッと変えて、いつものようなイタズラな笑みを浮かべている。
どうなるって……そりゃあ、ここに容赦なく落とされるでしょうね。
「落とすとかやめてよ」
「分かってんじゃん」
右頬の口端をニッと斜めに上げて不敵な笑みを作る。
「最低」
さっきの心配そうな斗樹はどこに行ったんだろ?
けが人を落とすなんて最低極まりない。
「落とされたくないなら俺に甘えてりゃいんだよ」
甘く低い声が耳をすり抜け、何故か心に響く。
なんで今日はこんなに優しいわけ?
気持ち悪くなるほど優しいから後が怖いんだけど。
でも、そんな斗樹の優しさをどこか嬉しく思っている私もいた。



