「あれって、炭谷くんと榊原さんだよね。
二人って最近付き合い出したらしいよ〜」
気づくんじゃねぇよ。
気を紛らわすためにお前と帰ってるのにこれじゃあ意味ねぇじゃねぇかよ。
しかも、最近付き合いだしたなんて俺が一番知ってるっつーの。
だってたまたまその近くに居て
好きな人が付き合う瞬間を聞いてしまったんだから。
『南帆ちゃん…俺でよかったら付き合わない?』
『こ、こちらこそよろしくお願いします…!』
その日のことは思い出したくもなくて必死に忘れようとしていたのにこの女と来たらさっそくNGワードを出しやがって。
「そうだな」
「斗樹くん、幼なじみなんだよね」
「ああ」
俺がこれ以上どんなに想ったってアイツはもう帰ってこない。
全部自分が悪いくせに……あの時素直になっていたらアイツはもしかしたらまだ俺の隣で笑っていてくれたかもしれない。



