「まだ暑いから拒否」
「そんなの知らない…!」
「つーか、そんなことよりも早く髪乾かしてよ」
私の反論も虚しく、強引にドライヤーを握らされてスイッチを入れられる。
ウィーンウィーンという機械音がやけに部屋の中に響く。
でも、私は斗樹がスイッチを入れてから数秒後にOFFにして、彼をギッと鋭く睨む。
「そんな怖い顔してどうしたわけ?」
「……後ろ向いてよ。なんで前なんか向いてんの?」
彼は今体ごと私の方を向けて『乾かせ』と言っているのだ。
そんなのやりにくいし、斗樹の顔が間近にあるからなんか嫌だし……とにかく嫌なの。
「いいじゃん。俺はミナの顔を見てたい気分なんだから」
「そんなの知らないし。前向かないなら乾かさない」
これでどうだ。
私はあんたの甘い言葉に騙されるような軽い女じゃないのよ。
「ふーん。じゃあ、乾かしてくれなきゃ……このままミナのこと食っちゃってもいい?」
「なっ……!!」
グイッ、と顎をすくい上げ、にんまりと口角を斜めにあげて意地悪っぽい笑みを浮かべて言う。
こ、コイツ……いつの間に私よりも一歩上をいくようになったのよ。
しかも、この顔は…確信犯だ。
私があの斗樹に惑わされるなんて信じられない。



