その時、廊下の角を曲がったロッド様が、手前の部屋の扉を開けながら口を開いた。



「どうやら、ここから奥は全て騎士や使用人の部屋のようだな。

今晩はここに泊まらせて貰おう。」



…!



どきり、と心臓が鳴った。


もちろん、“悪い意味”だ。


ジャンケンで一番奥の部屋を割り当てられた私は、妙に落ち着かない気持ちで部屋に入った。



…ガチャ



扉を開けると、セミダブルのベッドが一つあるのが見えた。


センスのいい調度品が並んでいる。



…綺麗な部屋だ。

綺麗すぎて、逆に不気味に思える。



ベッドに腰をかけると、シーツも真新しいもののようだ。



…?


本当に、ここには誰もいないんだよね?



するとその時、私の目にベッドの横の机に立てかけられた写真立てが映った。


一瞬どきり、としたが、写真の人物のあまりの綺麗さについ目を奪われる。


そこには、一組の若い男女の姿があった。


シンプルなデザインのドレスを身にまとった美しい女性は、先ほど廊下で見た女性とは違う人物のようだ。



…この人は、姫…?



その時、私は姫の隣に立つ青年に目が止まった。


“漆黒の髪”の彼は、不器用なのかシャッターのタイミングで目を瞑ってしまっている。



…ロッド様と同じ髪の色だけど…ロッド様なわけないもんね。



漆黒のマントにネクタイ。


既視感を覚えるのは気のせいなのだろうか。


写真をよく見つめると、ネクタイには刺繍が入っている。



「…?」



写真が古いせいなのか、よく見えない。


私が、じぃっ、と写真に見入った

その時だった。



コンコン。



「っ!!!!」



扉のノックされる音に、つい過剰に反応してベッドから飛び上がった。


その時、ひょいっ、と扉から顔を覗かせたアルが苦笑しながら私に言う。



「セーヌさん、ごめんね驚かせて。

僕とロッドは城の中を回ってくるから、セーヌさんは部屋にいてくれるかな?ラント君は隣の部屋にいるから。」







「う、うん!分かった…!」



びっくりした…。


ひらひらと手を振って扉を閉めたアルが見えなくなると、私は、ふぅ…、と息を吐いた。