そうなんだ…。



「城に住んでいた人達は、みんな他の町に移り住んだのですか?」



すると、微かに目を細めたロッド様が低く答える。



「いや、当時 流行った伝染病で全員亡くなったと聞いている。

もはや、かつての城の様子を知る者はいないだろうな。仮にいたとしても、相当な歳になっているはずだ。」



…!


伝染病…?



ぞくり、と背筋が震えた。



ロッド様の話では、当時は薬も治癒魔法も進歩していなかったため、なす術がなかったという。


その時、アルがぽつり、と呟いた。



「ノクトラームでも伝染病は流行ったけど、病が原因で亡くなったのは、その城にいた王族や騎士、給仕だけだったらしい。

もはや、その城だけ狙われたような結末のせいで“呪われた城”なんて噂が広まっていたな。」






の、呪われた城……。


ラントが、無意識に剣の柄を握っていることに気がついた。



「心の底から気が進まねー……。」



ぼそり、と呟かれたラントの言葉に、私はひどく共感した。



…関所を避けて荒れ地に向かうには、その城のどこかにある隠し通路を通らなきゃいけない。


大国ノクトラームの陰で衰退した国…

人々から忘れ去られた、“呪われた城”か…。




「まぁ、宿代が浮いていいだろ。

今さら伝染病にはかからないし。心配ない」



さらり、とそう言ったロッド様。



…ロッド様に怖いものはないんだろうか。


こんな歴史を聞かされた後に足を踏み入れるのは、誰しも少し躊躇すると思うんだけど…。



再び歩き出した私の足取りは、先ほどよりも重いものだった。



…怖がっている場合じゃないけど…

なんか、寒気がするな…。



城についてもいないのに、体温が下がっていくような気がする。


隣を見ると、ラントもいつもの数倍眉を寄せそして黙り込んでいた。



「…あ、見えた!あの城だよ。」



その時、アルが前方を指差して言った。


その言葉につられて、私達は前を向く。







私は、目の前の光景に息を呑んだ。


丘に立つ私達のその先には、今にも泣き出しそうな曇天が広がり

どことなく異質なオーラを放つ古城が小さく見えたのだった。