な…!

一体、なんなの…?



メイドは、再び私の腕を掴んで、ぐい!と引き寄せる。



「いーから、早く来い!

城の奴らにバレると、厄介なんだよ!」



「や…!離してっ!」



この人、本当にメイドなの…?!


まさか、城に忍び込んできた敵国のスパイなんじゃ……



その時

もつれ合うように抵抗していた私は、つい、彼女の長い髪を掴んでしまった。


と、次の瞬間だった。



…ズルッ!!



「「!!!」」



私の手に、なんとも言えない感触がした。


見ると、私の手の中には彼女の長い髪の束。

目の前の彼女は、真っ赤な短髪。



?!??!!??!



「きゃーーーーーっ?!!!!」



「騒ぐなバカ!!城の奴らが来るだろうが!!」



こ、これ“カツラ”…?!


目の前の“メイド”を改めて見つめると、女性にしては肩幅が広く、喉仏と角張った指は明らかに“男性”のものだ。

口調は明らかに男性だし、粗暴で女性らしさを目指しているわけではなさそう。



ま、まさかこの人っ!

“女装癖”があるヘンタイ?!!



私が二回目の叫び声を上げようとした瞬間

目の前の“彼”も動揺したように口を開いた。



「俺はお前に会うために“しょうがなく”メイドの格好をして来ただけだ!変な目で見るんじゃねぇ!

お前の部屋の警備が厳重すぎるのが原因なんだよ!」





???



頭が混乱しすぎて、整理が追いつかない。


私は、必死で心を落ち着かせながら彼に向かって声をかけた。



「わ、分かった、分かった…!

叫ばないから、ちゃんと私に説明してくれる?あなたは誰で、この国は一体どうなってるの?」



すると、彼は小さく呼吸をして、まっすぐ私を見つめながら答えた。



「俺はラント。ノクトラームの騎士団の一人だ。

この国は、見かけは大国だが、中はジャナルの野郎に全て支配されている独裁国家。」






私は、声が出なかった。


何よりも、彼が言った言葉が信じられなかった。



…“独裁国家”…?



ラントは、私を見つめながら言葉を続けた。



「ジャナルの家系は、元々王家の血筋だったんだが、闇社会との裏取引がバレて、国を追放されたんだ。

ジャナルは、自身の出生を隠して城の大臣となって、王から政権を奪うタイミングを狙ってた。」



あの、優しくて苦労人のジャナル大臣が、謀反を起こそうとしていた張本人ってこと…?



「ジャナルは、王子が隣国視察で城を留守にするタイミングを見計らって王と王妃に国外れの荒れ地の公共事業の視察を提案し、王たちを騙して魔法をかけ、荒れ地の小屋に監禁してるんだ。

そして城に帰ってきたジャナルは、王の代わりに独裁政治を始めたってわけさ。」



!!


“監禁”?!


だから、王様たちはいつまで経っても帰ってこないの…?!