アルは、そのまま言葉を続ける。



「僕は昨日、ロッドの呪いを浄化する為に、ロッドにセーヌさんとの約束を破るように言ったんだ。」



え…?



私がまばたきをすると、アルはこちらに視線を向けないまま続けた。



「昨日、セーヌさんは意識がなくてロッドを抱きしめることもできなかったし…

ロッドの痣も手を繋ぐレベルの浄化で治るほどじゃ無かった。」



…つまりアルは、ロッド様に私とのキスで呪いを浄化することを勧めたってこと?



アルは、私の方へと視線を向けた。


綺麗な翠の瞳が私を映している。



「セーヌさんとロッドの間には、お互い契約を結ぶ上での“決まり事”があるんだろう?

…ロッドは、僕に義理立てをして無駄死にしそうな勢いだった。」



…!



私が目を見開くと、アルは優しく瞳を細めて続けた。



「浄化は、今まで通り好きにやっていいとロッドにも伝えた。

僕がいるからって、気を使う必要はないんだ。…場合によっては、キスをすることも僕は止めない。」







アルは小さく呼吸をした。


沈黙が部屋を包む。


その時、アルが私の方へと向き直った。


私がアルを見上げると、彼は少し目を細めて口を開く。



「セーヌさん、一つ聞いていい?」


「…?」



アルは、すっ、と私の前にしゃがみ込む。


そして、少しの間の後、躊躇するように私に尋ねた。



「今まで、ロッドに触れることで、あいつの呪いを浄化して来たんだよね?」



「!はい、そうです…。」



アルは、私をまっすぐ見つめながら言葉を続けた。



「ロッドに“情”が移ることはなかったの?」







…“情”?



心の中に、小石が投げ込まれたような気がした。


ざわざわと、波が広がっていく。


自分の中で考えないようにしていたことが、一気に溢れてきてしまったような気がした。



…確かに、私はロッド様を死なせたくないと思っている。


でも、それはただ、目の前の“患者”を助けたいと思う“医師”のような気持ちだ。


他意なんて、ない。