私が彼の名前を口にすると、彼は薔薇色の瞳で私を睨みつけた。


ぞくり、と背筋が震えたが、怯んでいる場合じゃない。



「ロッド様はどこ?

まさか、アルやラントまで巻き込んだの?」



すると、彼は低い声で私に答えた。



「…それを知ってどうする。

助けにでも行くつもりか。」



同じ低い声でも、ロッド様とはまるで違う。


感情の込もっていない氷のような声は、私を容赦なく突き刺すようだ。



「…えぇ、そうよ。

当たり前でしょ…!」



「武器も魔法も使えないあんたが?」



「もちろん。貴方を倒してでも行くわ…!」



私の言葉に、クロウは静かにまつ毛を伏せた。


そして、身構える私に向かって一歩近づく。



どくん…!



心臓が鈍い音を立てた。



…部屋を出なきゃ…。


ロッド様達が来ないってことは、きっと地下牢の時みたいにどこかに閉じ込められているんだ。


私は覚悟を決めて、咄嗟に近くにあった灰皿を手に取る。


表情を全く変えないクロウに、私は一直線に立ち向かった。


灰皿を思いっきり振り上げて襲いかかるが、クロウはさらり、と私の捨て身の攻撃をかわす。



…っ!



かわされることは予想済みだ。


最悪、襖を突き破ってでも上手くこのまま部屋を出られれば…!



そんな私のあまりにも甘い考えは、クロウの素早い反応によって打ち砕かれた。

低い声が、耳元で聞こえる。



「…あんた、馬鹿だろ。」



「!」



ぐいっ!と腕を掴まれた。


痛いほどの感触に、顔が歪む。


少し乱暴な動作で、クロウが私の背に反対の腕を回した。



…っ!



掴まれている腕を引かれ、彼が私との距離を縮める。



「そんなので俺を倒せるとでも思ったのか」



…!



クロウの薔薇色の瞳が鈍く輝いた瞬間、彼が私の後頭部を手で引き寄せた。



「…んっ!」



一瞬で塞がれる唇。


どこか甘い“リンゴ”の味がした。







ドンッ!!



「っ!」



私は、クロウを力の限り突き飛ばす。


その勢いでクロウは、私を離した。



ぐらり



視界がぼやけて揺れ動く。



…い…

今……何が起こって………



クロウは、私を見つめたまま一歩後ずさりをする。



…体が…重い…。