ラントが、無意識にそう呟いた。


鏡の中にいたのは、漆黒の髪に碧色の瞳、俺が着るはずだった服を身にまとった“俺”だった。



ど、どういうことだ?



つい動揺して言葉を失っていると、はっ!と何かに気づいた様子のアルトラが口を開いた。



「これは、ジャナルの魔法で姿を変えたクロウだ!

盗んだ服を使ってロッドになりすまし、セーヌさんを欺こうとしているんじゃないか」



…!



確かに、ジャナルは魔法でおばあさんになりすまして俺たちを騙した。


これがジャナルの魔法なら、俺の服を盗んだ理由も筋が通る…!



俺とラントが、はっ、としたその時、鏡の向こうから姫さんの声が聞こえた。



『ロッド様が来るなんて、びっくりしました。

どうされたんですか?アルならまだ帰ってきてませんが…』



すると、鏡の中の“俺”は一歩部屋に入って襖を閉めた。



…!



きょとん、としている姫さん。


鏡の向こうから、聞き慣れた自分の声が聞こえた。



『俺はアルトラに会いに来たんじゃない。』



『え?』



『…姫さんに、会いたくて来たんだ。』



「ごほ!げほげほっ!!」



突然の思いもよらぬセリフに、つい咳き込む。



「落ち着け、ロッド!大丈夫か?」



そう声をかけるアルトラも、予想外の展開に戸惑いを隠せないでいる。



ク…クロウ…!


あいつ、何、とんでもないことを口走ってんだ…!


普段の俺なら百パーセント言わないであろうセリフを…!!



案の定、驚いている様子の姫さんが映し出された。


ラントも、言葉が出ない様子で鏡を見つめている。



すると、“俺”がさらに口を開いた。



『…体が痛むんだ。姫さんの力で、浄化してくれないか。』







その言葉に、姫さんは『あぁ、そういうことですか…!』と納得した様子で緊張を解く。


嫌な予感を感じつつ鏡を見つめていると、姫さんが“俺”に向かって手を差し伸べた。



『温泉、あまり効かなかったんですね。

…手を繋いでみますか?』



…っ。



その時、ふいに自身の中に熱が宿った。


優しげな姫さんの表情に、つい目を背ける。



…何だって、俺はこんな所で大人しく傍観しなきゃならないんだ…!



苛立ちにも似た感情がふつふつと湧き上がった。


と、その時、“俺”がぱしっ、と姫さんの手を掴んだ。



…え……?



「!あいつ、まさかこのまま連れ去る気じゃ……!」



ラントが、はっ、としてそう叫んだ

次の瞬間だった。



『…っ?!』



姫さんの小さな声と共に、そのまま姫さんを引き寄せる“俺”の姿が見えた。



《ロッドside*終》