俺の言葉に、二人が予想外といったような声を上げた。



「ど、どういうことですか?」


「言葉の通りだ。服が消えた。」



激しく動揺するラントに、俺はさらり。と言う。


着替えを置いておいたはずの籠の中から、湯上りに着るつもりだった服が消えていた。


まぁ、消えたと言っても上着とズボンのみだということがせめてもの救いだ。


…下着でうろつくわけにはいかないが…。



その時、アルトラがはっ!としたように口を開いた。



「そういえば、僕がここに入る前に宿屋の青年とすれ違ったんだ。

もしかしたら洗い物と間違えて持って行ってしまったのかもしれないね。」



…!



宿屋の青年…?


確かに、俺とラントが温泉に入る前も、忙しそうに掃除をしていたが…



「客の着替えと洗い物を混ぜるか?普通。」



ラントの言葉に、アルトラは、うーん、と腕組みをした。



「確かに…ラント君の言う通りだ。

脱衣所の掃除をしていた時に、誤って持って行ってしまったとか…?」



“誤って”…?



いくら想像しても考えにくい結論ばかりだ。


その時、アルトラが俺に向かって口を開いた。



「ロッドに貸そうにも、ラント君の服はサイズが合わないし…僕の服も少し小さい。

そうだ、僕が部屋に戻って予備の浴衣を持ってくるよ。」



「!あぁ、頼む。」



彼の提案を受け、俺は少しほっ、として頷いた。

ラントも、部屋の鍵を持ちながらアルトラについていく。


そして、二人が共に脱衣所ののれんをくぐろうとした

次の瞬間だった。



バチッ!!



「うわっ?!!」



突然、ラントが何かに弾き飛ばされたように体をよろめかせた。


アルトラも、驚いたような顔でのれんを見つめている。



なんだ…?



俺が眉を寄せたその時、のれんに歪んだ魔法陣が浮かび上がった。



!!



その場にいた全員が目を見開く。


するとその瞬間、宿屋のおばあさんがのれんをくぐって俺達の前に現れた。


突然のことに動揺したラントが、おばあさんに向かって叫んだ。



「ば、ばーさん!ここは男湯だぞ!」



すると、おばあさんから聞こえてきたのは、今まで聞いた柔らかい声と正反対の低い声だった。



「そんなことは知っていますよ。私がここに入っても全く問題はない。

…私は“男”ですから。」






聞き覚えのある声に、俺とラントの顔つきが変わった。


アルトラが、ぐっ、と険しい顔をしてある名前を口にする。



「…ジャナル……?!」