ラントは、話が見えない、と言った様子でまばたきをしている。
どこか楽しんでいる様子で俺を見つめるアルトラに、俺は息を吐きながら言った。
「俺と姫さんは“主従関係”であって、それ以上でもそれ以下でもない。
変に勘ぐるな。」
「へぇ…、なんだ。
色恋沙汰に疎い幼馴染みに、やっと春が来たのかと思ったのに。」
「…何言ってんだ。
姫さんはお前の嫁だろうが。」
すると、アルトラが微かに目を細めて俺に答えた。
「…うん、そうだね。
彼女は僕のお嫁さんだ。」
…!
心の奥に、今まで感じたこともないさざ波が立った気がした。
「…釘を刺しに来たのか?」
「!!違う違う!
今のはロッドに答えただけと言うか…」
表情を変えないままアルトラへ視線を向けると、アルトラは慌てたように俺を見た。
そして、小さく言葉を続ける。
「恋も自由に出来ない身分に縛られるのは王族の定めだって僕は分かってるけど…。
そのせいでお前まで振り回すことになるのは嫌なんだよ。」
「!」
はっ、とした。
アルトラは、翠の瞳をまっすぐ俺に向けている。
澄んだ瞳に、俺の姿が映っていた。
自分自身の中に眠る感情を見透かされているようで、心がざわつく。
…俺は、その気持ちに気付かない。
きっと、一生自覚することはない。
そう、決めたんだ。
「…俺のことなんて気にするな。
お前はただ姫さんを大切にすればいい。」
俺の言葉に、アルトラは小さく目を見開いた。
そして、何も言わずに俺から目線を逸らす。
アルトラは、ザバ…!と立ち上がると、濡れた髪の毛の雫を落としながら俺に言った。
「…そうだよな。
変なことを言って悪かった。」
苦笑するアルトラに、ラントが尋ねる。
「え、もう上がるのか?」
「あぁ。セーヌさんが部屋にいるんだよ。
長い間目の届かない場所に一人にさせておくのは危険だしね。」
ラントの言葉に、俺は口を開く。
「俺たちもそろそろ上がるか。
地図を見ながらこれからの旅の進路でも考えよう。」
ラントは俺の言葉に頷くと、ザバザバとお湯をかき分けて進んだ。
先ほどまでの会話はまるでふわふわした夢であったかのようだ。
何事もなかったかのように温泉を出るアルトラは、“王子”の顔をしていた。
…ガラッ!
体を拭いて脱衣所に入る。
するとその時、俺は目の前の光景に固まった。
「……。」
約0.1秒で動揺を押し込めて自分の籠に近づいていく。
冷静に籠を見つめるが、何度見てもその光景は変わらなかった。
「?ロッド団長?
どうしたんですか?」
着替えを終えたラントが俺に声をかけた。
旅用の服に身を包んだアルトラもその言葉に俺を見る。
少しの沈黙の後、俺はゆっくり口を開いた。
「…服がない。」
「「え?」」



