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「…退屈だなぁ。」



初めてノクトラームに来てから一週間後。

私は、窓辺の椅子に腰掛けて、城の外を眺めながら、ぽつり、と呟いた。


この部屋で暮らし始めてからというもの、私は一歩も外を出歩けていない。


食事は決まった時間に城のメイドさんによって運ばれ、それ以外はこの部屋を訪ねてくる者は一人もなし。


ただ、じっとして世話を焼かれているのは申し訳なくて、掃除や洗濯などを申し出たこともあるが、全て大臣によって制されてしまった。



“姫様にそんな雑用をさせるわけにはまいりません…!

姫様は静かに部屋で読書などを楽しんではいかがでしょう。読みたい本は届けさせますので。”


…って、言われても…。


この部屋の本棚にある本は全て読み終えてしまったし、城に貯蔵されている本は難しいものばかりで、私の頭では到底理解できなさそうだ。


この部屋には本棚の他にはベッドなどの家具以外に特に変わったものはないし…。


強いて言えば、最上階のこの部屋には暖炉があるくらいだ。

しかし今は春。特に使い道などないだろう。



王子様、いつ帰ってくるのかな。


早くお会いしたい…

というのもあるけれど、先に城下町に出る許可をいただきたいな。


ずっと城に閉じこもりっぱなしなんて、考えられない。


もっとノクトラームの人達と触れ合って、話を聞いて、この国のことを知りたいな。


城の人達とも、もっと話してみたい。

王子様や、王様達がどんな方なのか…とか。



…コンコン。



その時、静かな部屋に、扉をノックする音が響いた。



…?

今はまだ昼食の時間じゃないのに。



「鍵は開いているので、どうぞ。」



私がそう声をかけると、ガチャ…、と扉が開いた。

扉の向こうに立つ人物が、ゆっくりと姿を現す。


そこには、一人の“メイド”が立っていた。

長い髪で、うつむいているせいか、顔はよく見えない。

手には、一冊の本を持っている。



…?



不思議に思ってメイドを見つめていると、彼女は静かに部屋の中に入って扉を閉めた。


そして彼女は、ふっ、と顔を上げる。


綺麗な檸檬色の瞳が、私をとらえた。



…わ…。

綺麗な人…。



顔立ちはすごく整っていて、どこか中性的だ

私が彼女に見惚れていると、彼女はすたすたと私に歩み寄ってきた。


私は、メイドに向かって声をかける。



「あ、本を持ってきてくれたんですか?

ありがとうございます。」



すると、私の目の前まで来たメイドはピタリと立ち止まって、ちらり、と手に持っている本に視線を落とした。


そして次の瞬間

彼女は、さらり、と耳を疑うセリフを言い放った。



「あ?こんなのどーでもいいんだよ。

この部屋に忍び込むための“口実”だから」