すると、ひとしきり笑ったアルが、はぁ…!と呼吸をして畳に腰を下ろした。


私も、窓辺に手をついて腰を下ろす。



その時、何かを考え込むように花冠を見つめていたアルが、ふいに私に尋ねた。



「…セーヌさん。

シロツメクサの花言葉って知ってる?」







アルの言葉に、私は記憶を辿りながら答える。



「…確か…“幸福”とか、“約束”だったような」



確か、ロッド様がそう言っていたような気がする。


すると、アルは「うん、そうだね。」と微笑んだ後、小さく続けた。



「でも、シロツメクサは他にも花言葉があるんだよ。」



「え?」



“他の花言葉”…?



私が首を傾げていると、アルは少し低い声で私に言った。



「“復讐”だよ。」







復讐…?



私が目を見開くと、アルは再び笑い出して私に言った。



「ごめんごめん、そういう花言葉もあるってだけの話さ。

ロッドは“復讐”って意味は少しも意識してないだろうからね。」



…!



そ、そうだよね。


ロッド様が呪いをかけられた恨みで、ジャナル大臣に復讐を考えているのかも…とか色々考えてしまった。


ロッド様は、単に私へのお礼と誓いのためにこれをくれただけなんだもんね。



“俺は、姫さんの力を借りる代わりに、命懸けで姫さんを王子の元に連れて行くと誓う”



“だからいつか、この花冠が本物のティアラになって、姫さんがノクトラームの正式な姫になる日まで、俺の隣に居てくれないか。

…俺には、姫さんが必要なんだ。”



ノクトラームの草原で、私の前に跪いたロッド様の声が頭に蘇る。



…この花冠が、本物のティアラになる時。


それは、私の目の前にいるアルと、正式に夫婦になった時。



ぐっ…。



私は、急に体に力がこもる。



…私は、アルのお嫁さんになるんだ。



その時、花冠を見つめ、何かを考え込んでいたアルがぽつり、と呟いた。



「………“になって”……」







「アル?何か言った?」



よく聞き取れなかった言葉に私が聞き返すとアルは微かに目を細めて答えた。



「いや、何でもないんだ。

もう一つ、花言葉があったことを思い出してさ。」



“もう一つ”?



アルは「セーヌさんは気にしなくていいよ」と苦笑しながら続ける。


私は少し気になったが、城に戻れたらノクトラームの書庫で見てみようと思い、アルに追求することはしなかった。